健康をとり戻し、保つ。古典漢方医学の2大システムの考え方
古典漢方医学では“回復システム”と“バリアシステム”の2大システムによって私たちのからだを健康な状態に安定させていると考えます。この2つのシステムは古典医学・東洋医学では「営衛 (えいえ)」とよばれています。
営衛の営(えい)は、回復・成長を司るもので、回復システムをかたちづくり、体力を回復させたり、傷を治癒させたり、からだを栄養・成長させるといった働きをします。
営衛の衛(え)は、防衛・保護を司るものでバリアシステムをかたちづくり、外界の寒さや暑さ、物理的影響、外的ストレスなどをブロックしてからだの中を守り、体内の働きがスムースに働くようにします。
この2つのシステムが十分に機能しなくなると、ブロックできなくなったり、回復できなくなったりします。
結果、体内への影響が強くなり、ちょっとした刺激や些細な出来事でもからだに大きく影響し、体力が回復しにくくなったり、疲労が取れなくなったり、傷やからだの不調がなかなか治らなかったりとトラブルを生み出します。このようなからだの状態を古典漢方医学では未病と呼んでいます。
眠れない、だるい、イライラする、のど・胸がつまるなどは病気の用意段階―「未病」
未病とは、症状が明確になる前の不調なからだの初期の状態を単に言うのではなく、“病気になる用意ができたからだ”“ケガをする用意ができたからだ”の状態を言うのです。何かきっかけがあれば、病気になったりケガをしたりする準備のできた状態です。
この用意ができたからだは、現代のさまざまな病気やケガ、からだのトラブルを生み出します。
ぎっくり腰や寝違い、頭痛や肩こり、首こりだけではありません。起立性調節障害やめまい、のぼせ、冷や汗、自律神経失調症などの自律神経の不調。更年期障害や 不妊症、第二子不妊症、ほてりなどの内分泌・ホルモンの不調。 過食や拒食、うつ傾向、不安症、チック、パニック障害などの心療内科の疾患症状。がんや心臓病、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の体質。そして、耳鳴りや脱毛症、アトピー性皮膚炎、乾燥肌などこれ以外にも様々な分野に影響を及ぼします。
「原因-結果」の考えだけでは整理できない「用意ができたからだ」
これらの例の中でぎっくり腰や寝違いの発症はわかりやすい例です。急に重い荷物を持ち上げた、ソファーで居眠りをしてしまったなどで、ぎっくり腰になったり寝違いを起こしたりすることがあります。これらはそれ相応の負担や原因で起こったものですが、発症のかたちはこれだけではありません。
くしゃみをした、振り返ったなどほんの些細な動作でもぎっくり腰や寝違いを起こすことはよくあります。そのようなことのほうが多い方もいらっしゃいます。その原因は先ほどの“病気になる用意できたからだ”“ケガをする用意ができたからだ”になっていたことが一番の理由です。
同様なことが自律神経系の疾患や生活習慣病、慢性疾患にもいえるのです。パニック障害になる用意ができてパニック障害になり、糖尿病になる用意ができて糖尿病になる。そしてがんですら同様なことが起こり得るのです。
病気がないこと≠調子がいいこと
このような“病気になる用意ができたからだ”“ケガをする用意ができたからだ”の状態=未病を治癒させていくのが古典漢方医学での脈診はり治療の目的です。
未病のきっかけとなる営衛の働きの悪化を改善し調えて、体のすみずみまで働かせ行きわたらせることで、良い体調をよみがえらせ健康を取り戻すのです。
脈診のはりの継続治療は、その良い体質を恒常化し安定させ、さらに1ランク上の上質な体調を生み出します。“なんだかいい調子”といったことや、“機嫌がいい”状態は仕事のパフォーマンスがいい状態を作ってくれます。仕事をする上でも生活の中でも“機嫌がいい”“パフォーマンスがいい”ことは私たちの人生においてとても大切ことです。
健康の価値。私たちの治療に求めているもの。
「健康がすべてではないが、健康を失うとすべてを失う」といわれます。楽しむにも、はげむにも健康や体調がそれらの礎になります。
現在は洋の東西を問わず様々な形態・考えの治療があります。症状を消失・軽減が目的の治療、とことん原因を取り除く治療、からだ自体を改造していく治療、そして、からだの機能を十分働かせるようにする治療。
ここで質問です。
あなたの治療の目的は何でしょうか?
あなたが必要と求めているものは?
兆しの段階で防ぎ、病気やケガの用意がなされないからだを作ることは、上質な人生、上質な時間を過ごす上で大変重要になっていく鍵ではないでしょうか。